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熊本地方裁判所 昭和38年(む)994号 判決 1963年11月24日

被疑者 水田満雄 外四名

決  定

(被疑者氏名略)

主文

司法警察員谷津文雄が昭和三十八年十一月二十三日被疑者水田満雄同斉藤勉同林田広俊同園崎慎一同緒方時彦と弁護人三角秀一との各接見の日時同場所に関しなした指定処分は取消す。

右被疑者と右弁護人との接見を左記の如く許可する。

昭和三十八年十一月二十四日午前九時から同十時三十分までの間熊本北警察署において被疑者一名につき各十五分間宛。

理由

申立人弁護士三角秀一の本件準抗告申立理由の要旨は、右被疑者等は昭和三十八年十一月二十二日公職選挙法違反の嫌疑により熊本地方裁判所裁判官の発付した令状によつて逮捕され目下熊本北警察署において取調中のものであるところ、申立人は右被疑者等の家族から弁護方を依頼され、同月二十三日午後二時同警察署に至り右被疑者等との接見を申入れたところ、同署司法警察員谷津文雄は捜査のため必要があるとして右接見の日時、場所につき、「全被疑者を十一月二十四日頃熊本地方検察庁検察官に送致するので送致後主任検察官の指定する日時及び場所により接見すること。」なる旨の指定を行つた。

しかし、右指定はその内容が同被疑者等を検察官に送致後主任検察官の指定する日時、場所により接見すべきこととなつておつて実質的には警察における、被疑者等と弁護人との接見を禁止したと異ならず、結局弁護人と被疑者との接見交通権を侵害した違法処分であるから右処分を取消し早急接見日時の指定を求めるということにある。

しかして、被疑者水田満雄等五名が現に熊本北警察署に逮捕留置中であること、申立人が右被疑者等の弁護人に選任されておることは本件捜査記録により明らかであり、また司法警察員谷津文雄が前記日時申立人申立理由要旨通りの接見日時同場所に関する指定処分を行つたことは同指定書(正本)の記載により明白である。

よつて審按するところ、刑事訴訟法第三十条第一項は被疑者は被告人と同様何時でも弁護人を選任することができる旨を規定し、また同法第三十九条第一項は身体の拘束を受けている被疑者は弁護人と立会人なくして接見しまたは書類もしくは物の授受をすることができる旨を定めている。

しかして同条第三項は捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り検察官、検察事務官、又は司法警察職員は右接見または授受に関しその日時場所および時間を指定し得ることとしているが、この場合においても被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなこととなつてはならない旨、その行き過ぎを戒しめており、同条項の配置および文意に徴するときは第一項の接見、授受の自由を原則とし、第三項の指定を限定的な裁量措置として規定したものであることは明らかである。

最高裁判所も夙に逮捕中の被疑者が警察に身柄拘束中、弁護人との面接時間を二分ないし三分間と指定されたような場合には右指定は被疑者に権利として認められた防禦準備の時間として余りにも短か過ぎ、不当の措置といわなければならないと判示(昭和二八・七・一〇最高裁第二小法廷判決参照)しており、本件処分も右法意等に照らしてその違法の有無もしくは裁量の当不当を判断しなければならないことは勿論である。

尤も本件の如き公職選挙法違反事件は一般的には、その証拠の大部分を被疑者相互の供述に依存し、また連鎖的に発展する事案である性質上、被疑者と弁護人の接見交通の時期規正について捜査の必要性からの考慮が他の一般事件のそれよりも高い比重を占むべきことは首肯し得ないところでもなく、なお斯種事犯は司法警察職員と検察官との間の捜査の一貫性を必要とする性質のものであることも否定し得ないのであるが、本件捜査記録によれば本件被疑者五名はいずれも当初から逮捕に係る被疑事実を自供し、その相互間に何ら供述の矛盾撞着箇所が認められず、その逮捕被疑事実に関する限りは現在の取調程度で立証に欠くところがないと思料されるので、現段階において被疑者等と弁護人との接見を許可するも格別捜査の進展に支障を招くとは考えられない。

また検警一体化という捜査態勢上の要請も無視し得ないところではあるが、そのために、捜査の第一次的責任者は司法警察職員であること(刑事訴訟法第百八十九条第二項)、司法警察員は送致時までに一応の捜査を終結すべき職責を有すること(刑事訴訟法第二百三条第一項)、司法警察職員も独自の立場において固有の接見指定権を認められていること(刑事訴訟法第三十九条第三項)等の現行刑訴法下における司法警察職員の捜査遂行上の主体性や警察持ち時間における捜査の一段階性を考慮の外に置くことは到底許されないのである。

したがつて接見を不相当とする特段の捜査上の事由があり、また警察職員が刑事訴訟法第百九十三条第三項所定の検察官の具体的指揮権の下にあつてその捜査の補助にあたつているに過ぎない等、特別の場合を除いては、被疑者の逮捕時から検察官に対する送致時迄のいわゆる警察時間内においても司法警察職員が弁護人と被疑者との接見機会をすくなくとも一回以上付与すべきことは刑事訴訟法第三十九条第三項の一応予定しておるところであるといわなければならない。

してみると本件において司法警察員がなした前記指定は実質的にみて送致後の検察官にその指定を委し、警察時間内には一切弁護人の接見を許さない処分と異ならない結果に帰するものであり、かつ本件が右に述べたような特別の場合に該るとみるべき疏明立証も存しないので、結局右処分は刑事訴訟法第三十九条の法意に背馳する違法が存することになり取消を免れないものである。

仍て司法警察員谷津文雄が昭和三十八年十一月二十三日被疑者水田満雄同斉藤勉同林田広俊同園崎慎一同緒方時彦と弁護人三角秀一との各接見の日時同場所に関しなした指定処分は取消し、右被疑者等と右弁護人との接見を昭和三十八年十一月二十四日午前九時から同十時三十分までの間熊本北警察署において被疑者一名につき各十五分間宛許可することとし、刑事訴訟法第四百三十二条第四百二十六条第二項により主文のとおり決定する。

(裁判官 石川晴雄)

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